1960年代から90年代にかけて、「本の町」神保町の一角で特異な輝きを放っていたジャズ喫茶「響」。マスターの人柄と、そのマスターがつくり出した親しみやすい空間にひかれて多くのファンが足を運んでいた。なかには、公演で来日したジャズメンの顔も。エルビン・ジョーンズ、ジョン・コルトレーン、セロニアス・モンク……。全く夢のような面々である。可能ならば、その時代、そのシーンに戻ってみたいもの。本書『ジャズ・ジョイフル・ストリート』は、そのジャズ喫茶「響」の伝説のマスター・大木俊之助氏が著した同名の処女作を電子書籍化したもの。「神田・神保町《響)》流、ジャズの聴き方・楽しみ方」「あゝ《響》、喜びと感動の25年」の2部構成になっており、初めてジャズを聴く方、ジャズを難しいと考えている向きも、著者のわかりやすい解説、創意工夫に富んだ独自の例題表現手法についつい引き込まれていくだろう。加えて、開店にまつわる話、いろいろな客の好み・要求にいかに応えるべきか常に気を配っていた著者の心遣いがストレートに伝わってきて「響」が多くの人に愛されていた理由の一端が読みとれる。この電子書籍版では、底本にはなかった貴重な資料もカラー写真で付け加えられている。エルビン、コルトレーン、モンクはもとよりアート・ブレイキー、オスカー・ピーターソン、ジャッキー・マクリーンら数多くのジャズメンのサイン入りLP、色紙、コンサートプログラム、パネル等々。ジャズファン必読必見、電子書籍の長所を生かしきった一書に仕上がっており、既刊の『JAZZ楽苦我喜草子』『あなたとJAZZと湘南と~鵠沼海岸の風に乗せて~』とあわせて読むと、楽しみも倍加する。